イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第5章 閉ざされて
「何のためにあいつを苦しめたんだ!お前の勝手な都合であいつを巻き込みやがって、挙句の果てに『足りない』か?!?ふざけるな!!!」
リビングルームにアレクの息の音が響いた。ラッドはアレクの手を横に払いのけた。
「二度と、彼女にそんな思いはさせない。」
ラッドの硬い声に、アレクは鋭いまなざしを飛ばした。
「……言ってろよ。お前にあいつが守れるのか?」
アレクは乱暴に音を立ててドアを開いて廊下へ出ると、通りがかったハルが驚いて目を瞬かせるのも無視してどかどかと歩いて行ってしまった。
「……ラッド様は、テリザをどうなさるおつもりですか。」
ハルはあえてアレクの剣幕には触れず、ラッドに問いかけた。
ラッドはアレクに掴まれたシャツをはたいてから息をつき、答えた。
「元気になるのを見届けてから…自由にしてやろう。」
ハルは何か言いかけるように口を開きかけ、また閉じてしまったが、ためらいながらもまた唇を開いた。
「…どうか後悔のありませんように。」
ラッドはドアに手をかけ、ハルに軽く振り返って微笑した。
「ああ、しないさ。」
その口元に滲む嘘が、ハルには見透かされている気がしてならなかった。