イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
ハルは、やや伏し目がちのまま切り出した。
「ラッド様は…幼い頃に、ご両親を亡くされた。」
「……ぇ」
思わず声を零してしまった。
「だからだろうな。ラッド様は、大事な者を失うことを知っているから…俺が最初に屋敷に来た時には、随分と拒絶されていた。」
ハルはそのことを思い出しているのか、苦笑しながら言った。
「だからこそ、君は…….彼のそばにいて欲しい。」
きっぱりと言われ、テリザは思わず息を飲んだ。
「……どうして、私が。」
「君は、ラッド様に大事にされているからだ。君さえ嫌でなければ、ラッド様は君をここに居て欲しいと思っているだろう。」
(そん、な……。)
テリザは固い表情で前を見据えた。
「テリザ…?」
「…すみません、何でもありません。」
声をかけてきたハルから、テリザは逃げるように立ち上がった。
「ありがとうございます。明日もまたブルーベルで、よろしくお願いします。」
「テリザ、」
何か言おうとしたハルを遮り、テリザは微笑した。
「大丈夫ですよ。私はすぐには消えたりしません。」
笑みを浮かべるテリザを、ハルは複雑な表情で見た。
「……」