イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
**
翌日、テリザは久しぶりに階下に下りて行った。
(…しっかりしないと。)
いつまでも逃げていられない。
ほうっと息を吐いて胸を落ち着け、気のドアに手をかけて、開いた。
すぐさま視線は、彼を捉えた。
「ラッド様…」
新聞に目を落としていた彼は、テリザの声に顔を上げた。
彼が何か言う前に、テリザは微笑んだ。
「―――おはようございます。」
ラッドはほんの一瞬、目をわずかに見開いたが、新聞を置いて、肩に入っていた力を抜いた。
「―――ああ、おはよう、テリザ。」
テリザの心は、妙なほど冷静だった。
―――演じ切らないと。
「長いことご心配をおかけしてしまって申し訳ございませんでした…私の不注意だったのに。」
ラッドは眉を寄せた。
「いや、巻き込んですまなかった……責任は、俺にある。」
その言葉に、テリザは真っ直ぐ彼を見据えた。
「そんなこと、言わないでください。本当に、いいんです。私は……」
喉の奥に、言葉が詰まった。
―――言わないと。
「私はラッド様の妹でいられて、嬉しかったです。」
―――嘘を、ついた。
ふっとラッドの表情が真剣身を帯びた。
「本当にそう思ってくれているのか?」
(ラッド、様…?)
朝に似つかわしくない、表情の影。
―――少し、怖い。
なぜそう思ったのかはわからないが…彼の『男』の一面を見た気がした。
「……はい。」
今度はあまり躊躇なく答えられた。
―――ごめんなさい。
だけど、今はこうすることしかできない。
手を、伸ばせなかった。