イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
裏口の開く音が、店の奥の方から微かに聞こえた。
「アレク…おはよ。」
身の置き場のないように思っているのか、アレクを見てから、彼女は視線を外した。
「…おー。」
いつもながら不愛想な返事をしてしまうが、それでも彼女は安心したように微笑した。
「ごめんね、ずっと来てなくて…。」
「別にいい。お前のせいじゃないだろ。」
そう答えると、彼女は目を瞬かせた。
「え…アレク、もしかして知ってるの?」
「おー。全部聞いてる。」
そうだったの、と言う彼女と、少し距離を詰めた。
「お前、少しぐらいは文句言えよ。一方的に迷惑かけられてんだろ。それなのに『妹』とか勝手に言われて、嬉しいか?」
「……。」
思いのほか刺々しい言葉が口から飛び出し、すぐに後悔した。
(やべっ…泣くか…?)
しかしテリザは大きな反応は示さなかった。その代わり、アレクを見上げて答えた。
「そんなのじゃないよ。これは私の責任だから、果たしてるだけ。」
「責任だったとして、自分を犠牲にするのかよ。」
アレクの言葉に、テリザはきょとんと目を丸くした。
「犠牲って…なにが?」
―――自覚すらなかったのか。
言葉を失うアレクから目をそらし、彼女は畳まれたままにしていたテーブルクロスに手を触れた。
「あ、まだかけてない分、やっとくね。」
不機嫌そうに黙ってしまたアレクにも慣れた様子で通り過ぎ、テリザは白いレースのクロスを丁寧にかけていった。
―――彼女は、何かが違う。
アレクは瞬時にそれがわかった。
自分のことを、何だと思っているのだろうか。
彼女に聞きたいことが無数にあったが、一つも口に出すことはできなかった。