テキストサイズ

イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~

第6章 思惑


   **


「リュカ、久しぶり…!いらっしゃいませ。」

「テリザちゃん、戻ってきたんだね!体調は大丈夫?」

「ありがとう、もう平気だよ。」


前と同じような光景ではあるが、幸いなことに、リュカを取り囲む女性の集団はない。


リュカの注文をとってカウンターに戻ってきたテリザは、いつもと同じように紅茶を淹れ、トレーの上にティーカップと皿を乗せた。


「ウエイトレスさん。」


ふいに男性の声とともに、トントンと腕を叩かれた。


「!」


びくっと体を震わせ、テリザは弾かれたように振り返った。


「え……」


客の一人が、怯えたようなテリザを見て目を丸くしている。


「申し訳ございません…何でしょうか。」


動揺を隠して言った。


「あ、ああ……すまないがつぼに砂糖を足してもらえるかな。」


「かしこまりました。」


砂糖壺をとってカウンターの中に入り、砂糖の袋を探した。


(落ち着いて、落ち着いて…。)


心の内で自分に言い聞かせながら、震える手を袋に伸ばすと、先に誰かの手がそれをすくい上げた。


「こっちは俺がやっておく。リュカのところに行っとけ。」


アレクがテリザの方を見もせずにさらっと言った。


「あ、ありがとう…。」


―――怖がっているのを、気づかれたかもしれない。

申し訳ないのと感謝の思いを込めて、アレクに頷いた。


トレーを持ってリュカのテーブルに行く途中、ブルーベルのドアが開いた。


「テリザちゃん…!今日も可愛いね。久しぶりに会えてよかった。」


片手を軽く上げてにこやかに挨拶するノエルに、テリザはありがとうと言って小さく微笑みかけた。



ストーリーメニュー

TOPTOPへ