イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
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「リュカ、久しぶり…!いらっしゃいませ。」
「テリザちゃん、戻ってきたんだね!体調は大丈夫?」
「ありがとう、もう平気だよ。」
前と同じような光景ではあるが、幸いなことに、リュカを取り囲む女性の集団はない。
リュカの注文をとってカウンターに戻ってきたテリザは、いつもと同じように紅茶を淹れ、トレーの上にティーカップと皿を乗せた。
「ウエイトレスさん。」
ふいに男性の声とともに、トントンと腕を叩かれた。
「!」
びくっと体を震わせ、テリザは弾かれたように振り返った。
「え……」
客の一人が、怯えたようなテリザを見て目を丸くしている。
「申し訳ございません…何でしょうか。」
動揺を隠して言った。
「あ、ああ……すまないがつぼに砂糖を足してもらえるかな。」
「かしこまりました。」
砂糖壺をとってカウンターの中に入り、砂糖の袋を探した。
(落ち着いて、落ち着いて…。)
心の内で自分に言い聞かせながら、震える手を袋に伸ばすと、先に誰かの手がそれをすくい上げた。
「こっちは俺がやっておく。リュカのところに行っとけ。」
アレクがテリザの方を見もせずにさらっと言った。
「あ、ありがとう…。」
―――怖がっているのを、気づかれたかもしれない。
申し訳ないのと感謝の思いを込めて、アレクに頷いた。
トレーを持ってリュカのテーブルに行く途中、ブルーベルのドアが開いた。
「テリザちゃん…!今日も可愛いね。久しぶりに会えてよかった。」
片手を軽く上げてにこやかに挨拶するノエルに、テリザはありがとうと言って小さく微笑みかけた。