イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
あっけにとられたノエルは、少しの間テリザの去って行った方を見ていたが、ガシャっと乱暴に皿が目の前に置かれる音で我に返ったように目線を戻した。
「仕事中の従業員に手を出すな。」
不機嫌そうなアレクにじろりとにらまれ、ノエルは悪びれもせずに爽やかな笑みを返した。
「あれー、気になってるの?珍しいね、アレクが女の子に興味を示すなんて。」
「そんなんじゃねー。いいからあいつだけはやめとけ。」
―――なぜそう言ったのか。
アレクは、自分でもわからなかった。ただ…踏み込んでしまうと、彼女は、そのまま指先をすり抜けて、二度と触れられないところまで行ってしまいそうだった。
ノエルはニヤっと笑った。
「本気になっちゃおうかな?」
が、アレクに肘で強めに突かれ、目の前に置かれたタルトの皿に顔を突っ込みそうになった。
「…素直じゃないね。」
あきれ顔のノエルの呟きは、アレクに聞かれることはなかった。