イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
「……。」
ハルは注文を受けてからカウンターに行くと、彼女は普段と何も変わらない様子で、テーブルの方で接客をしていた。なんとなく様子を見ていると、彼女は客に微笑みかけてから頭を下げた。
そこでハルははたと気づいた。
一度も―――そう、一度も。
彼女の笑った声を聞いたことがない。
テリザの感情の表し方が欠しいとはいささか思っていたが、改めて思わされた。
テリザとは、どういう人なのか、と。
しかし―――同時にハルは考えた。
彼女はすぐにクロムウェル邸を離れるのだ。深入りするのは失礼にあたるかもしれない。
―――いずれにせよ、彼女のことを、ラッドが気にかけ続けることは、目に見えている。何故だか、そんな気がした。