イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
「ラッド様…」
軽くノックをすると、どうぞと中から聞こえたので、テリザはドアを押して入った。
「テリザ?」
ラッドは目を丸くして固まっている。
「すみません、こんな時間に…」
「いいや、構わないよ。それより、どうしたんだ?」
「その…」
テリザは立ったままそわそわと迷っていたが、意を決して口を開いた。
「郊外の教会の…クリスさんって、私のことを知っているんですか?」
「クリス?ああ、知ってるはずだ。」
「え?」
あっさり肯定され、テリザは拍子抜けした声を出してしまった。
「少なくともテリザの名前と正体と、テリザがここにいる大体の事情は、俺から聞いてるから知っているな。そもそもクリスは、ブラッドレイ家に潜入するために手伝ってくれた人だから…」
テリザは思わず顔を覆って、崩れ落ちるようにしゃがみ込んだ。
「っ、テリザ?!」
(よ、よかった……)
泣いているわけではなかったけど、安堵で体中から力が抜けてしまっていた。
「すみません…」
テリザはそう絞り出した。
頭の方に影がさして、ラッドが近くに来たのだとわかった。