イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
「…今まで、ありがとうございました。」
「えっ」
テリザは悲しみを押し殺し、淡く微笑した。
「そう仰ってくださって、嬉しいです。でも、私の役目は終わりましたから。」
「テリザ…」
「これ以上お世話になるわけにはいきませんから…。」
「テリザ。」
ラッドの鋭い声に、テリザは止まった。
「ラッド様…?」
「君がここにいることで傷つくなら、自由にしたいと思っていたが…そんなことを気にして出ようと思っているなら、君は何の気兼ねもしなくていい。ここに好きなだけいるといい。」
「っ、でも…」
テリザは目をそらそうとしたが、顎を指先でとらえられ、目を合わせさせられた。
「こっちを見なさい。」
「ラッ、ド、様……」
(怖い…っ)
やっぱり見ていられなくて、視線を彼の顔から背けてしまった。
「テリザ。」
促すような低い声とともに、彼の吐息が耳にかかる。ふるり、と肩を震わせ、テリザはゆっくりと彼と目を合わせた。
穏やかな光をたたえたオリーブ色の瞳に、強く視線が惹かれる。
―――こうして彼の顔を見るのは、あの件以来だったか……。
苦しいのに、近づくことを抗わねばと思うのに、胸の高鳴りはその時と少しも変っていなくて………。