イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
*
「何の騒ぎだ。」
使用人の叫び声を聞いたラッドは、廊下に踏み出した。直後、フットマンの一人がこちらに走ってきてラッドの胸にぶつかってしまった。
「し、失礼致しました、ラッド様、」
「大丈夫だ。それより何が起きているんだ。」
女性の悲鳴が聞こえてきて、ラッドは顔を上げた。
「テ、テリザ様が攫われた所を見ました…!」
フットマンの言葉に、ラッドは一瞬目を見開いたが、声を張り上げた。
「すぐに警察を呼べ。ここでは手がかりを…」
「その必要はない。」
澄んだ低い声がラッドの言葉を遮り、ドサリと床が揺れた。
クリスが、縛り上げた男を片手でラッドの前の床に投げ出したのだ。呻き声を上げる男を、ラッドは目を丸くして見てから、眉根を寄せたクリスの姿に顔を向けた。
「クリス、どうして君が…それに、この人は…」
「話は後だ。部屋を貸せ。」
ラッドは無言で近くの部屋のドアを顎で示すと、クリスは男の襟の後ろを掴んで引きずり、部屋に投げ入れた。その乱暴な所作に驚きながらも、ラッドはその後について部屋の中に入り、ドアを閉めた。