イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第2章 ティーカップ
(ど、どうしよう......!)
とっさに破片へとを伸ばすと、男性がそれをやんわりと押しとどめた。
「危ないから、そのままでいい。君はうちで今日から働いてくれているテリザ...だね?」
「はい…。」
うつむきかげんのまま答えた。しかし彼はテリザの失態を気にした様子もなく微笑んだ。
「俺はこの店のオーナーのラッドだ。よろしく」
(この人が......!?)
「申し訳ございません...! あの、専用のティーカップを割ってしまいました...」
「ああ、気にしないで、大丈夫だから」
おどおどするテリザとは裏腹に、ラッドはやわらかい声で言った。
「でも...っ、とても高価なものなんじゃ......」
「確かに、代々我が家に伝わるアンティークだけど、それより、君が怪我しなくてよかった」
(代々伝わるアンティークって......そんなに大事なものだったんだ...!)
「あの! お詫びをしてもし切れませんが......せめて、弁償させて下さい」
「うーん、気持ちは嬉しいけど...」
ラッドは苦笑した。
「弁償するとなると、城が建つくらいのお金が必要かな」
(お城......!?)
テリザはひやりと背筋が凍った気がした。
(せめて兄妹の助けになればと思って働きに出たのに、早々に、こんなこと…!)
「だけど、まあ...それなら丁度いい。君みたいな子を探していたんだ」
不意に、すっと腕が伸びてきて――オーナーが、テリザの顎をすくいあげた。
(な......何!?)
「ティーカップの代償は...――身体で、払ってもらおうかな」
どきりと鼓動が鳴った。
艶めいた仕草とその言葉に、心臓が早鐘のように打った。