イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第2章 ティーカップ
それからテリザがオーナーに連れて来られたのは、まるで城のような、大邸宅だった。
「我が家へようこそ、テリザ」
テリザは豪華なリビングへと通され、ラッドとハルと、テーブル越しに向かい合った。
(この人たち...何者なの?どうみても、ティーサロンの経営者ってだけじゃなさそうだけど…)
『にしても、君...この店で働こうなんて、変わってるねー』
『あれ...テリザちゃんは、 「ブルーベル」の秘密、知らないんだ?』
今朝聞いたノエルの言葉が頭によみがえる。
「では、改めて自己紹介をしよう。」
ラッドがテリザに向かって微笑した。
「俺のフルネームは、ラッド=クロムウェル。名字なら聞いたことあるかな」
(......! 聞いたことあるも何も...)
クロムウェル家――それは、リングランドの勢力を二分する有力貴族の片方だ。
「それじゃ......オーナー様は、貴族...だったんですか...?」
わずかに掠れた声でテリザが言うと、ラッドの代わりにハルが答えた。
「ああ。ラッド様は、クロムウェル家の当主だ」
(貴族の、当主......!? ノエルさんの言ってた秘密って...これ!?)
「といっても、別に固くなることないからな。貴族とはいえ、親父が始めた鉄道事業がたまたま俺の代で成功して運よく爵位をたまわっただけだしな」
(そうだとしても......私には雲の上の人だよ)
呆然として、テリザは思った。
(そんな人が私に、 『身体で払え』 って言うなんて......一体、どう意味なの...?)
テリザを見つめ、オーナー...ラッドは親しげに微笑んでいる。
「君のそういう素直なリアクションも、なかなか可愛いな」
不意に、ラッドの手が伸びて来て、テリザの頬をそっと包んだ。
「ラ、ラッド様...!?」
優しげな手つきに、テリザは胸の鼓動が再び早まるのを感じた。
「ますます、君が気に入った」