イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
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「っ……。」
テリザは背中を銃でぐっと押され、つんのめるようにして暗い建物の中に足を踏み入れた。
(…ここは……。)
辺りを見回しても、ほとんど真っ暗なため何も見えない。再び背中を押されて、テリザはよろけた。
首には、先刻からの細い傷がうっすらとできていて、それがちくちくと痛む。
部屋で、後ろからナイフを首に当てられたテリザは、数秒間恐怖で固まっていた。しかし反射がそれを上回った。逃げなければという思いに突き動かされ、テリザはまず悲鳴を上げた。
一か八かだった。しかし幸運なことに、男は不慣れだったのかぎょっとして手の力を緩めた。テリザはその一瞬をついて、ナイフを持った男の腕を上にねじり上げた。故郷の学校で学んだ護身術だった。しかしテリザの細腕はすぐに振り払われ、男は襲い掛かってきた。テリザは廊下に走り出ると、男の顔めがけて思い切りドアを閉めた。手ごたえはあったが、立ち止まるわけにはいかなかった。パニックに陥ったまま、テリザは半ば盲目的に廊下を駆け抜けた。突き当りのドアを開いて飛び出た先は、外だった。しかしテリザは冷静な判断ができていなかった。ただ恐怖に取りつかれ、半狂乱のまま走っていると…….気づいた時には両側を固められ、車の中に押し込められていた。
衝撃のあまり、声を出すこともできなかった。