イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
(私…バカだ……。)
今更気づいても仕方ないのだが、テリザはそう思わないではいられなかった。
そもそも抵抗するなんて無謀だった。その仲間が近くにいる可能性も考えていなかった自分を責めた。
ラッドと、ハルに迷惑だけはかけまいと思っていたのに。
「ほう…あの時の雌狐が、ラッドの妹だったとな。」
男性の声に、テリザは顔を上げた。暗がりの中から、一人の人間が姿を現した。
ブロンズの髪。グレーの瞳。加えて、端正な顔立ち。
(リック……。)
テリザは震えながらも、ぐっとその顔を睨んだ。
「いい目をするな、お嬢さん。嫌いじゃない。」
乱暴な言葉遣いは、舞踏会で会った時とは比べものにならないほど低い声で発せられている。顔を近付けられると、そのグレーの瞳の冷たさにテリザは身震いした。
どうして一瞬でもこの人が悪党に見えないなどと思ったのか、不思議なほどだ。