イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
「うああああああああああああ!!!!!!!」
リックはナイフを取り落とした。
その隙を逃さず、ラッドは前にいた男たちを一度に蹴散らすと、テリザの前に駈け寄った。
「テリザっ」
「ラッド様……」
安堵から、目には涙が滲む。
「おいラッド、そろそろ警察が来るぞ。そいつを縛っておけ。」
「ああ、ありがとな、クリス。」
顔を上げると、鉄の階段の真ん中の窓が割れており、二階の踏み場からクリスが二人を見下ろしていた。その手には、まだ煙が微かに立ち昇っている銃が握られていた。クリスが、ふっと銃口を吹くのを視界の端に捉えた。
撃ったのは、彼だったらしい。
まさか、この距離でリックの腕を正確に―――と驚く間もなく、バタン、と倉庫の扉が大音を立てて開いた。
なだれ込んだのは、数十人の警察官。
そしてその一番前には、ノエルがいた。
「拘束しな。」
「はっ!」
ラッドによって転がされていた男たちが、あっという間に縛り上げられていく。残党も、すぐに有能な警官たちの手によってすぐに拘束された。
「全く、せっかちすぎますよ、ラッド様。」
「姫を襲われそうになっていたものでなー。警察を待っていられなかった。」
「警察……。」
茫然とテリザが繰り返すと、ノエルがいたずらっぽく笑った。
「俺、警部なんだよね、一応。テリザちゃんには秘密にしてたけど。」
「……。」
呆けたようなテリザに、ノエルが歩み寄ってくる。しかしそれより早く、上からは銃を構えたままクリスが飛び降りてきて、音もなく着地した。
「口説くのは事件後にしておけ、ノエル。…大悪党のお目覚めだ。」
呻き声を上げていたリックが、体を起こそうと動き出した。クリスは素早く銃を彼に向け、バシュ…と音を立てて、その手の真横の地面に弾丸を叩きこんだ。
「まだ足りないのか?」
クリスは冷たく笑ってリックを見下ろし、その腕をひねり上げた。
「ぐあっ……」
「おい。」
クリスはリックの体を押し出すようにノエルに投げ出すと、ノエルは苦笑してその手に手錠をはめた。