イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
クリスは彼女の首筋に指先を滑らせ、彼女の唇に触れると、開かせた。
はっ、はっ…と苦しそうな息が、テリザの唇から漏れる。クリスは眉根を寄せる。
「―――クロムウェル邸に帰らせろ。すぐにだ。」
「俺も……」
「お前は仕事をしろ、馬鹿警官。」
彼女を送る、と言い出しそうなノエルに、クリスは素早く切り返す。彼女を送るのに、大の大人三人もはいらない。
「お見舞いには行くからね。」
ノエルは朦朧とした様子の彼女を優しく見下ろすと、踵を返して去っていった。
「様態は。」
「よくはない。が、安静にして薬を飲ませれば大丈夫だ。」
ラッドが彼女を横抱きにして車の方へと歩いていくと、すぐ横にクリスがついてくる。
ラッドは後ろに彼女を横にならせてから、運転席に乗り込んだ。クリスもその隣に乗り、バン、とドアを閉めるが、ラッドが車を発進させてしまう直前、ノエルがその窓ガラスをコンコンと叩いた。
「―――何だ。」
クリスが不快を隠すこともせずに窓を開けて言うと、ノエルは軽く手招きした。
「悪いね、けど一人は警視庁に来てくれないと困るんだ。そういう決まりだから。」
チッとクリスは舌打ちすると、再びドアを開いた。
「―――そいつには、ハルにでも薬を調合させて飲ませろ。体を休ませれば大丈夫だ。何かあったら呼べ。」
「ありがとな、クリスさん。」
ラッドはクリスの手を握りしめて礼を言うと、クリスは鬱陶しそうにそれを振り払ってしまう。
「仕事をしただけだ。報酬はたっぷりいただくからな。」
彼はそう言って車を出ていくと、ノエルの後について行ってしまった。
ラッドはキーを回そうとして、エンジンがかけっぱなしになっていたことに気付き眉間に手を当てた。