イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第6章 思惑
「テリザ。」
「はい……。」
彼が、頭上で息を吸うのが聞こえた。
「―――君の帰るところはここだと、言ってもいいか。」
彼の言葉を聞いた途端、テリザは熱いものが込み上げてくるのを感じた。
―――ごめんなさい。
ごめんなさい。
ごめんなさい。
テリザは何も言わずに、彼の胸にすり寄った。
その目の端には、涙がいっぱいに溜まっていた。
泣いちゃダメ、泣いちゃダメ。
テリザは自分に言い聞かせて、無理矢理に涙を押し込める。
「……テリザ?」
ラッドの声がして、テリザは顔を伏せた。
「ごめんなさい………」
消え入るような彼女の声が、果たしてラッドの耳に届いたかは、わからない。
ラッドは、考え深げにテリザの頭を抱き寄せ、そっと髪を撫でた。
重たくて暗い夜が、深まっていく。
星は、その空には浮かんでいなかった。