イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
(ユアンさま……。)
テリザの理解が追いつかなかった。
どうすれば。
なんとかしてこの状況からの脱出を考えるが、何もできなかった。
ユアンはさっと彼女の身体を横抱きにして馬車のもとへと歩いていくと、彼女をそっと中に座らせた。
「彼女の荷物を。」
「はい。」
従者に向かって彼は言い、ローガンは後から中に入ってきた。
「全く、ユアン。君は随分と生意気な態度をとるようになったな。」
「…恐れ入ります。」
ユアンは淡々と答えた。
ローガンはテリザと向かい合うように座ると、口を開いた。
「君の家は。」
テリザは首をゆっくりと横に振った。
しかしそうすることで頭痛はひどくなり、思わず呻いて窓にもたれかかった。
「テリザ…?」
ユアンは心配そうに彼女の頬に触れた。
振り払う気力もなく、テリザはうなだれていた。
―――熱い。
苦しい、痛い。
やめて。
もう終わりにして。
ガラガラと馬車が動き出す。その中、ローガンは眉根を寄せた。
「……体調が悪いのか。」
テリザは小さく頷いた。口を開く元気もない。
ユアンは彼女の額に手を伸ばすと、ぴたりと当てた。途端、彼の表情は曇り出す。
「―――ローガン様、予定の変更です。すぐに医者に診せないといけません。」
「酷いのか。」
ローガンは淡々と言うと、ユアンは真剣な表情で頷いた。
「近くの病院は。」
「クリスさんの教会が一番近いかと。」
ローガンは深く溜息を吐くと、従者に向かって再び声を上げた。
「―――行先を変えろ。教会のところへ。」
従者の返事を聞くと、ローガンは席に身を沈めた。