イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
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「ローガン様はどうかここでお待ちください。」
教会の前に馬車が止まると、意識が混濁しだしたテリザに手を伸ばそうとしたローガンを止め、ユアンが彼女をさっと抱き上げた。
雨が降りしきる中、彼は靴で水を跳ね上げながら教会の扉まで行くと、体で押して開けた。
「クリスさん!」
ユアンは髪からしたたる雨を拭おうともせず、クリスの名を呼んだ。
すると、まだ起きていたのだろうか、クリスはあからさまに不機嫌そうな表情で階段から下りてきた。
「一体何時だと思ってやがる。ったく、お前は…」
文句を言っていた彼は、ユアンの腕に抱かれた女の顔を見て、止まった。
「テリザ…?」
「説明は後です。すぐに治療を。」
クリスは彼女をユアンから受け取ると、階段を上っていった。すぐ後に、ユアンも続く。
ベッドに彼女を寝かせると、クリスは棚から体温計を取り出し、消毒すると彼女の舌の下に滑り込ませ、その体に貼り付いた服をタオルで拭った。
クリスはおもむろにユアンに向かって振り返った。
「お前はどうしてこいつを…?」
「馬車で帰っていたところ、彼女が雨に打たれて歩いていました。」
クリスは眉間に皺を寄せ、彼女を見下ろしてその額に手を当てた。
「安静にしていろと言ったはずだがな。」
「…彼女に何があったんですか。」
「知るか。それよりお前、どうせローガンと一緒なんだろ。こいつはここに置いていけ。面倒は見る。」
クリスはすぐに切り返した。
「……彼女は大丈夫なんでしょうか。」
「大丈夫だからさっさと行け。ローガンを怒らせると面倒だ。」
ユアンをしっしっと追い払い、クリスは棚から薬を出し始める。
「…また様子を見に来ます。」
ユアンは軽く頭を下げてから再び彼女を一瞥すると、部屋を出ていった。ほどなくして下にはガタガタと彼女の荷物を運び込む音がして、ようやくしんとした静けさが教会に戻った。