イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
ようやくどうにか、見ても問題のないような恰好になったことに安堵しかけるが、本来の目的を思い起こし、クリスは机に出した薬類を手に取った。
急にベッドから、ゲホゲホと酷い咳の音が聞こえる。彼女は苦しそうに体を縮め、胸を押さえている。
(……肺炎を疑った方がいいかもな。)
汗を流す彼女の顔は苦しげに歪められており、はっ…はっ…と早い呼吸がうかがわれた。
クリスは彼女の首筋に手を当てて脈をとると、深く溜息をついた。
―――この娘は一体、どういうつもりだったのか。
今の様子から見て、死ぬようなことにはならないだろうが、誘拐された直後のときよりも更にひどい状態になっている。雨に打たれたせいなのだろう。それでもなお彼女がクロムウェル邸を出た理由とは。
再びテリザがひどく咳き込み、クリスは彼女の背中をさすった。
「……この馬鹿。」
静かな呟きは、夜に吸い込まれていった。