イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
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クリスがテリザの要求を承諾した翌日、テリザの症状はますます悪化していた。
クリスの言っていた通り、肺炎になってしまったようだった。額に、体に汗が噴き出し、異常な音の交じる呼吸をするテリザに、クリスは眉間の皺を濃くした。
テリザは若く、ここまで肺炎が悪化するというのはクリスにとってやや予想外だった。もともと心臓が悪く、体も強くはないと聞いてはいたが、それも関わっているのかもしれない。
クリスは注射と点滴を打とうとテリザの袖を捲り、僅かに目を見開いた。
おびただしい数の傷跡が、彼女の左腕にあった。さして新しいものはなかったが、その数は四十か、五十か、或いはもっとか…。明らかに、刃物で意図的につけられたものだ。
───自傷痕か。
その単語が頭に思い浮かび、クリスは唇を噛んだ。