イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
これはクリスには知らないことだったが、テリザがブルーベルで火傷を負った時に袖を捲られるのを嫌がったのは、このためだった。赤い火傷がそれを覆い隠していたため必要のないことだったかもしれないが、それでもテリザは反射的にアレクの手を払いのけてしまったのだ。
しかしクリスとて医者だ。この程度で怯むわけにもいかず、彼は手際よく針を消毒すると、テリザの腕に注射針を刺し、治療を進める。
「……い」
点滴の用意をしていたクリスは、テリザの声に振り返った。一瞬、テリザが起きたのかと思ったが、うわごとのようだ。熱にうかされた彼女は、何かを言っている。
「ごめんなさ…、ごめんなさい……」
咳のしすぎで掠れた声だ。テリザの表情が、苦悶に歪む。彼女は喉をのけぞらせ、苦しそうな呼吸音を立てると、ぐっと布団を握りしめた。
高熱のせいか、悪夢を見ているようだ。このまま寝かせているのも辛そうだと判断し、クリスな彼女の方を叩いた。
「おい」
「ぅ……」
テリザは僅かに首を振るような仕草を見せ、身を固くする。クリスはそっと彼女の肩を揺すると、彼女はようやく目を開いた。