イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
テリザの意識が彷徨い出した頃、階下からノックの音が聞こえ、クリスは読んでいた本から顔を上げた。見てくるとテリザに声をかけそうになったが、すんでのところで彼は口をつぐんだ。平日に教会を訪ねてくるのは、大した用事でもないだろう。すぐに済む。
クリスは礼拝堂に下りていくと、閂を外した。外に立っていたのは、アレクだ。傘もささずにずぶ濡れになっている。
「ラッドからの依頼だ」
彼は挨拶もなしに切り出した。
「断る」
負けじと間髪入れずにクリスが返すと、アレクは、うるせえと低い声で唸るように言った。
「…あいつがいなくなったんだ。探せ。どんな手を使ってでも、だ。」
「あいつじゃ分からない。誰のことだ」
「しらばっくれるな。テリザのことだ」
明らかに気の立ったアレクとは異なり、クリスはあくまでも冷静だった。ラッドが彼女を探そうとすることぐらい、想定の範囲内だ。
「幼児じゃあるまいし、ちょっといなくなっただけでぎゃあぎゃあ騒ぐな」
「ふざけてる場合じゃないだろ!」
アレクはクリスに詰め寄った。
「あいつはなあ、ボロボロになってんだよ!ただの同僚の俺から見ても分かるぐらいにな!今にも死にそうなあいつが突然姿を消したら、何かあったと思うに決まってるだろ!!」
「……」
激高するアレクを、クリスは冷たく見据えた。