イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
だが、そんな彼を、誰が責められよう?
壊れているのはアレクではなく、テリザなのだ。
「……考えては、おく」
アレクはそれだけ言って、クリスに背を向けた。戸口で、彼は振り向いた。
「にしても…やけにあいつの肩を持つんだな」
アレクのからかい混じりの言葉に、クリスは鼻を鳴らした。
「…一度受け入れた患者だからだ。それ以上でも以下でもない」
「あっそ」
ドアの閉じる重たい音が、礼拝堂に響き渡ると、クリスは表情に何の感慨もなく二階に戻った。寝室では、テリザがぼんやりと天井を見つめていた。
「…ラッドがお前を探している」
テリザは数度瞬きをしただけで、何も言わなかった。クリスの声に、責めるような響きはない。ただ事実だけを伝えているに過ぎない、といった口調だ。
やがて、テリザは口を開いた。
「…ブルーベルの仕事は、ちゃんとやります。でも、屋敷には戻りません。…そう、ラッド様に伝えてください」
「…分かった」
クリスは、何も追及しなかった。