イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
イチジクを齧ると、柔らかな歯ごたえがした。テリザにとって、懐かしい、悲しい味だった。
否が応でも、故郷を思い起こさせる。
(ラッドは、あの人に似ている)
温かくて、優しい。人を愛することを躊躇っていて、少し臆病になっている。
そんな彼に惹かれるのは、テリザにとって当然であり、また致命的とも言えることだった。
愛される覚悟ができていないのに、心が先走って彼に応えようとしている。彼と共にありたいと思う。だけど、今彼に愛されることを選べば、心が崩壊してしまう。
自分が愛されるなんて、あり得ない、気持ちの悪いことだ。そう感じてしまっている以上、ラッドの気持ちに応えることなどできない。