イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
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二日後になって、ようやくテリザはブルーベルに復帰した。荷物は、教会でまとめてある。仕事の後に宿を探し、明日からは宿から出勤すればいい。
幸いなことに、ブルーベルにハルやラッドの姿はなかった。代わりに、カウンターの後ろにはいつも通りにアレクがいた。
「アレク…おはよう」
「おー」
緊張が声に滲んでしまったが、アレクはさして気にした様子もなく、いつもと同じように不愛想な声で答えてくれた。
「ごめんね、ずっと来てなくて…。今日からはいつも通りに、」
「なあ。お前、もう屋敷には戻らないのか?」
「……え?」
はっきりと聞こえたにも関わらず、テリザは思わず聞き返してしまった。アレクは、表情を変えずにテリザを見据えていたが、困惑したテリザの様子に、がしがしと頭の後ろをかいた。
「…わりー。責めるつもりじゃねー。ただ、お前が急にいなくなったから…変な感じがするんだよ」
「そ、うなんだ…。うん、ごめん…。もうラッド様のお世話になるのは申し訳なくて」
「だから、謝るなって。俺がいじめてるみたいだろ」
こつんと額を突かれ、テリザは小さく微笑んで首を竦めた。
「お前、これからも教会にいるのか?」
「ううん。流石に、今日出るつもりだよ。どこかの宿を借りようかなって思ってる」
「そーかよ。気を付けろよ、治安のいいところを選ばないと、やばい奴に忍び込まれる」
「それはちょっと…ううん、かなり困るね」
テリザが笑ったのを見て、アレクは安心したように微笑した。
「じゃ、開店準備にかかるか」
「はーい」
テリザはいそいそとエプロンをかけ、いつもと変りなく、準備に取り掛かった。