イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第7章 雨の音
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アレクの言葉通り、二人は昼前にやってきた。ハルはテリザを見て軽く頷き、アレクと新メニューに関して言葉を交わしていたが、ラッドはテリザを奥の従業員室に呼び寄せた。
「……」
「……」
テリザは何を言えばいいのか、分からなかった。ラッドはさっきから何度か口を閉じては開いている。恐らく、彼も迷っているのだ。
ようやく、テリザは口を開いた。
「ごめんなさい」
「どうして謝るんだ…」
ラッドの大きな手が、優しくテリザの髪を梳いた。変わらない彼の優しさに、涙が出そうだった。
「勝手に屋敷を出て…ご心配をおかけしました」
本当は、それよりもっと酷いことを彼にしている。好きなのに、拒んでいる。自惚れでなければ、彼は好いてくれている。自分が臆病なばかりに、それを受け止められない。
「いいんだ。もう、いい。君が元気になってくれて、よかった」
「ラッド様…」
顔を上げると、ラッドは微笑んでいた。
包み込むような、優しい瞳。テリザの胸が締め付けられた。
「テリザ…キスしてもいいか?」
テリザは息を飲んだ。ずきずきと、胸が痛む。受け入れられない。それなのに、拒めない。相反する二つの気持ちがせめぎ合い、テリザは小さく口を開いた。
「わ、たし、は……。あなたに、酷いことをしました。そんな資格…ありません」
「何も酷いことなんてされていないよ」
低い声が、誘惑をしてくる。逆らえない。流されてしまいたい。喉の奥に、何かが詰まったような感覚がする。