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イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~

第7章 雨の音




   ***


アレクの言葉通り、二人は昼前にやってきた。ハルはテリザを見て軽く頷き、アレクと新メニューに関して言葉を交わしていたが、ラッドはテリザを奥の従業員室に呼び寄せた。


「……」

「……」


テリザは何を言えばいいのか、分からなかった。ラッドはさっきから何度か口を閉じては開いている。恐らく、彼も迷っているのだ。

ようやく、テリザは口を開いた。


「ごめんなさい」

「どうして謝るんだ…」


ラッドの大きな手が、優しくテリザの髪を梳いた。変わらない彼の優しさに、涙が出そうだった。


「勝手に屋敷を出て…ご心配をおかけしました」


本当は、それよりもっと酷いことを彼にしている。好きなのに、拒んでいる。自惚れでなければ、彼は好いてくれている。自分が臆病なばかりに、それを受け止められない。


「いいんだ。もう、いい。君が元気になってくれて、よかった」

「ラッド様…」


顔を上げると、ラッドは微笑んでいた。

包み込むような、優しい瞳。テリザの胸が締め付けられた。


「テリザ…キスしてもいいか?」


テリザは息を飲んだ。ずきずきと、胸が痛む。受け入れられない。それなのに、拒めない。相反する二つの気持ちがせめぎ合い、テリザは小さく口を開いた。


「わ、たし、は……。あなたに、酷いことをしました。そんな資格…ありません」

「何も酷いことなんてされていないよ」


低い声が、誘惑をしてくる。逆らえない。流されてしまいたい。喉の奥に、何かが詰まったような感覚がする。

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