イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第8章 織りなす言葉
(どうして忘れさせてくれないの)
弱い自分が、憎くて、苦しくて。
苦しむ資格なんてないと思うのに。あの人は、自分よりももっと傷ついていたのに、自分がこうなってどうするというのだ。せめて表面上は笑顔を見せないとと思うのに、それですら上手くできなくて、へたくそで。あまりにみじめだ。
せめて彼だけでも幸せになってくれれば胸の荷物は軽くなったかもしれないが、自分が手を出すことはできない。ただ、遠くから見守るしかできない。そして自分だって、ラッドに近づくことができない。進めない。それだけでも馬鹿みたいで、彼に迷惑をかけているのに、ラルフを見ただけでこのざまだ。
───もういっそ、このまま。
階下でドアの軋む音がしても、テリザは動けなかった。階段を上ってくる聞き慣れた足音に反応を示す間もなく、ドアが開いた。
「おいっ……、どうした!」
クリスの力強い腕がテリザの肩を掴み、ようやく彼女は顔を上げた。
「あ……クリス、さん?」
「何があった。怪我でもしてるのか?」
「ごめんなさい、何でもないの、ごめんなさい……」