イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第9章 追憶
彼と軽く言葉を交わし、テリザは椅子に座った。兄はバイオリンを構えたままぽつりと呟いた。
「本当に、なんでこんなの始めちゃったんだろうな」
「そう、だよね……。私も、お父さんがあんなのじゃなければ、」
そこまで言いかけ、テリザはさっと青ざめた。聞き慣れた足音がしてきて、ドアが開いた。
リビングルームから、不機嫌さを全身に表す父がやってきた。
「どうしてさっきからバイオリンの音が聞こえてこない」
「ごめんなさ」
「そんなにやめたいなら勝手にやめろ!」
びりびりと響くような父の怒号に、ラルフは縮み上がった。父の怒りを前にしては、そう言うしかできなかった。テリザはとばっちりを恐れ、部屋の隅に寄って二人を怯えて見ていた。