イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第9章 追憶
「もう面白くないというならやめろ。さっさとやめろ、出て行け!」
「っ……」
兄は目を泳がせて立往生をしていた。父は息も荒くテリザにまた向き直った。
「テリザ、こいつが一緒にやるのが楽しいと前に言ったな?ならこいつがやめるならお前もやめたいんだろう。もうやめてしまえ!!」
「ごめんなさい、やめたくないです、ごめんなさい」
滅茶苦茶な理屈にも、テリザはそう返すしかできなかった。
こんな光景が、この家では日常だ。父に精神的な、時に肉体的な暴力をふるわれる者を、誰も庇わない。ひとたび怒り狂うと、父には人間の言葉が通じない。口を挟むだけ無駄だ。
開きっ放しのドアから、リビングルームにいる母の姿が見えた。彼女は何も聞こえていないかのような顔をして、下の妹をあやしている。上の妹マリアと弟のグレゴリは、父の狂ったような罵声を耳にして不快そうな顔をして部屋を出て行った。大方、公園にでも遊びに行くのだろう。そんな彼らを、テリザは責める気になどなれなかった。
これが普通。これが、当たり前なのだから。