イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第9章 追憶
この行為の意味するところを知らずとも、ただ彼の言うことを聞くのが嫌になってきたのは、ほんの一か月ほど前だった。彼の相手をするのが面倒だ、というだけの気持ちだったが、しないと彼が不機嫌になり、怒るので、従うしかなかった。罵声と暴力こそないが、不機嫌さを見せれば相手が機嫌を取りにきて、言うことを聞かせることができるのだと思っているあたり、やはり彼はあの父と親子なのだと、テリザはずっと後になってから思った。
「兄さん……」
裸のまま兄に抱きつくと、彼は髪を撫でてくれた。ふくらみかけた胸をいじられ、テリザはくすぐったそうに首をすくめて、小さく笑った。
自分が堕ちたのは、歪んだ畜生道だったのだとテリザが知ったのは、初めての行為から一年が経ったころだった。