イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第9章 追憶
「今まで酷いことをしてきた。本当に、本当にごめん」
始めは、何のことか分からなかった。ただ、時々子供らしい喧嘩をしてしまう時の、それだけのことを言っているのだろうと思ったが、やがてじわじわと実感が湧き上がってきた。
彼が言っているのは、夜毎のあの行為のことなのだと。
彼が何かに気がついたことに、テリザも薄っすらと気がついてはいた。ただ、気がつかないふりをしていた。
望まないセックスの末、人工中絶をして、生涯苦しむ女性の本を、兄が読んでいた。悲しみの性を、彼は知ってしまった。そのことに、テリザは目を瞑り続けていた。
そうでないと、テリザも行為の意味に気が付いてしまうから。そして、地獄に気付いてしまうから。