イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第9章 追憶
何もなくなった自分を罰したくて、何度も何度も剃刀で手首を切りつけた。赤い血が玉のように膨らみ、滑り落ちると、少しずつ息が落ち着いていった。自分が嫌いだ。大嫌いだった。その思いに霞がかかるようで、テリザは狂ったように自傷した。
気が付けば、腑抜けのようになったまま卒業していた。学校を出ても、女は女だ。大した仕事が入ってくるわけでもない。そのまま実家で暮らしながら近所の仕事を手伝ったり、家事をしたりしている日々のうちに、テリザは十九歳になっていた。そんな中とうとう母が倒れ、退院しないうちに、父も倒れた。収入がなくなり、焦った矢先に見つけたのが、ブルーベルの従業員募集の広告だった。兄に頼る分も、貯金も、限界がある。貴族の屋敷に下働きに出ていた弟にも頼れない。上の妹マリアは、下の妹の面倒を見るので精いっぱいだ。働けるのは、テリザしかいない。息苦しさに耐え兼ねたように、テリザは駄目元でその広告を出したラッドに連絡を取った。