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イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~

第3章 舞踏会





その後には、テリザはハルにレディとしての振舞いを教わることになった。


「ハルさんは...私が令嬢になることに、反対なんですよね」


そう尋ねると、ハルは準備を整える手を止めずに淡々と答えた。


「確かに俺は、君が舞踏会に行くことに賛成はしていない」


(それなのに、レッスンをしてくれるんだ...)


「あの......ありがとうございます」


返って来たのは、冷静で事務的な返事だった。


「誰だろうと、関わった人間を危険にさらすのは本意ではないだけだ」


(心配...してくれてるの、かな。)


「素性が知れないよう、最低限レディとしての挨拶を覚えろ」


なんだかいたたまれない気持ちのまま、テリザはうなずいた。


「はい...っ」









ハルのレッスンがひと段落した頃には、もう夕方になっていた。

少しだけ休憩時間をもらったテリザは、屋敷のバルコニーへひとり足を向けた。


(これから私、いよいよ舞踏会に行くんだ......)


不安に胸を騒がせながら、用意したブレスレットを腕から外して眺めてみる。


(すごく綺麗だけど......)

夕日に輝くこの金細工のブレスレットが、自分に全然相応しくない気がする。


(出来る限りのことはするって決めたのに.....私に、貴族の令嬢なんて務まるのかな...)


それに―――。



不安がじわりと胸に広がった、その時―――


「あ...っ」


手からブレスレットが飛び出し、手すりを越えて落ちていく。


(いけない...!)


慌てて下を覗き込むと――


「痛ってー......」


「アレクさん......?」


「...テリザ?」


ウェイターの制服から着替えたアレクが...なぜか庭に佇んでいた。

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