イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第3章 舞踏会
「どうして...ラッド様の屋敷に…?」
テリザが目を瞬かせた。
「......俺はティーサロンの従業員として、ここに居候してるだけだ。それより、お前こそ、どうしてこんなとこにいんだよ」
「それは...」
言いかけて、ラッドの言葉が頭をよぎった。
『大丈夫だ。身分を誰にも秘密にする...それさえテリザが守ってくれればな』
(アレクさんにも...話しちゃいけないよね)
「その......色々あって」
心苦しく思いながらも、曖昧に言葉を濁した。
「...あっそ」
アレクはなぜか、それ以上は聞こうとしなかった。
「それよりこれ、お前のか?」
(あ...!)
アレクが掲げて見せたのは、テリザが落としたブレスレットだった。
「そう...! さっき手を滑らせてしまって...」
「アクセサリーを人の頭に落としたりすんじゃねえ」
「ご、ごめんなさい...! すぐに取りに行きます!」
(なんだか、アレクさんにはみっともないところ見られてばっかりだな)
そう思いながら手すりから離れようとした時......
「いい。そこにいろ」
(えっ、そこにいろって言われても...)
アレクは、屋敷に沿って伸びる庭木を軽やかに登り始めた。
「アレクさん...!!? 危ないから、やめて…」
「......騒ぐな。ハルに見つかるとうるせーから」
みるみる内にテリザの目線まで登り切ると、アレクが枝づたいにバルコニーへ飛び移る。
(あっと言う間にここまで登って来れるなんて...)