イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第3章 舞踏会
『......ハル、いくら可愛いからって、レディの顔を不躾に見つめるもんじゃないよ』
リュカが呆れたように、ハルの額をぐいっと押し退けテリザから引き離す。
『何の話だ。俺はテリザが最低限レディに見えるかどうか最終チェックしていただけだ。』
ハルはいたって生真面目な表情で言った。
(あ......そうだったのか…敵地に乗り込む訳だし、神経質にもなるよね)
理由が分かって、詰めていた息をそっと吐き出す。
(なんとか――...乗り切れるよね...?)
どうにか気持ちを落ち着けた後、テリザはハルとリュカから詳しい作戦を聞いたのだった。
(......もう、後戻りは出来ない)
舞踏会のポールの入り口で足を止めたテリザに、ハルが静かに声をかけた。
「...テリザ。私はここで、何か起きた時のために見張りをしている。リュカが君を屋敷の奥へ通じる入口まで案内する」
「はい...」
(リュカの話だと...その一番端にローガン様の部屋があるんだよね)
リュカはテリザの肩に手を触れた。
「それじゃ目立たないように、ダンスをしながら広間を抜けていこう」
「は、はい...」
(即席で習ったダンスだけど...ちゃんと踊れるかな)
「あのさ、テリザちゃん。これだけ豪華な舞踏会はリングランドでも珍しいんだ。目的はラッド様の悪戯の手伝いだけど...楽しまなきゃ損だよ」
リュカがにっこりと笑い、テリザに手を差し出した。
(確かにきっと......こんなこと、私の一生で一回きりかもしれない)
「はい、リュカ...よろしくね」
いつの間にか、彼に対する敬語は抜けてしまったが、そこまで気にならなかったのは、彼の優しそうな人柄のせいかもしれない。
「リュカ、もう一つ、ダンスをする大事な理由があることを忘れるな」
ハルが言うと、リュカは瞬きをした。
「え?」
(何だろう...?)
「パートナーらしく振舞い、他の男をテリザに寄せ付けないようにすることだ。恋人同士でダンスをしているカップルに、他の人間は近づかない」