イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第3章 舞踏会
それから...――なんとか無事にクロムウェル家へ戻ったテリザは、満面の笑みのラッドに迎えられた。
「ありがとう、テリザ。今夜は大活躍だったな」
(大活躍というより、幸運だっただけだと...これで...本当に大切なカップのお詫びになったのかな)
「あの......どうして、このコインが欲しかったんですか?」
コインをラッドに渡しながら、思いきって尋ねてみる。
(持ち出す人を捕えようとするなんて...ただの玩具な訳ないよ)
「そうだな...テリザには聞く権利があるか。」
ラッドは軽く言った。
「このコインは、リングランドにある、とあるカジノの通行証なんだ」
「え......? リングランドに、カジノなんてありましたっけ...?」
「会員制でその存在は隠されている...言わば秘密のカジノだ」
(初めて聞いたな...)
「どうしてそんなものが、ローガン様のお部屋に......」
「大貴族であるローガンには、裏の顔があってね」
ラッドはふと苦い表情をした。
「我が宿敵ローガンは、カジノ... 『クラウン』 の元締なんだ。」
(元締ってことは......ローガン様は、秘密カジノの総責任者なの...!?)
『私の部屋へひとりで忍んでくるとは......可愛がられたくて来たのか?』
『それとも......罰して欲しいのか?』
ローガンの身も凍るような笑みが脳裏によみがえる。
(そんなとんでもない人と、私は会ってたの...!?)
驚くテリザを前に、ラッドは言葉を続けた。
「俺は......ローガンのカジノに、ちょっと用があるんだ。だが、ローガンと俺の家は敵同士だし、会員制カジノの通行証なんて、俺が頼んでもくれないだろうから、こうしてテリザにお使いを頼んだ訳だ」
(このコインが、そんな大事なものだったなんて...)
「お使いなんてレベルじゃありませんよ…心臓が止まるかと思いました...」
テリザは苦笑した。
「悪い悪い、だけどテリザ、君は思った以上に見込みがある。」
ラッドは悪びれずに笑った。