イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第2章 ティーカップ
全ての始まりは、たった1日前の時のことだった。
足元の荷物を詰め込んだトランクを抱えて、テリザはリングランド駅に降り立った。
国一番の大都市。故郷の町とは大違いで、少し気後れしてしまう。人の波に押されそうになりながらも、テリザはティーサロン『ブルーベル』 の前で足を止めた。
(...ここで間違いなさそうだな)
艶のある黒色の外装。ウィンドウの上には、金色の文字で店名が書かれている。花の香りがテリザの鼻腔をくすぐった。
(素敵なお店......)
緊張と共に期待に心を躍らせながら、テリザはティーサロンのドアに手を掛けた。
「...!」
「わ...っ」
お店に足を踏み入れた途端、誰かの胸に頭がぶつかった。
「っ...ごめんなさい!」
「...まだ開店前だけど」
すらりとした長身の男性が、テリザをまじまじと見下ろした。琥珀色の瞳は不機嫌そうに細められている。