イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
「帰ってきて早々すまないが…話がある。」
テリザから手を離すと、ラッドは深刻そうな声で言った。
「はい、何でしょう。」
ラッドと向かい合ってソファーに座ると、控えていたハルがテリザの前のティーカップにハーブティーを注いだ。
「ありがとうございます。」
テリザは微笑んでから、緊張した面持ちでラッドを見た。彼は口を開いた。
「単刀直入に言うが…俺と一緒に、ある貴族の家に侵入してほしい。」
そのセリフに、テリザは持ち上げかけていたカップを持つ手をぴたりと止めた。
「侵入…ですか?」
動揺はあまり面に出さずにテリザは聞き返した。
「ああ。実は、何者かが俺の鉄道会社を利用して、リングランドに違法なもの…薬物や、武器を運び込んでいるようなんだ。」
ネクタイを緩めながらラッドは説明した。
「一般の者では警備をかいくぐる力もない。そこで、貴族家の登場だ。」
「どこかの貴族の方が、そんなことを…?」
尋ねたテリザに、ラッドは緩やかに首を振った。
「貴族の奴らだけならまだマシだ。…つい最近、その組織の者が一人、捕まったんだが…そいつは、ここからそう遠くないスラム街を君臨する、マフィアの一員だった。」
テリザは息をのんだ。ラッドは真剣な表情を崩さないまま、カップに口をつけてから続けた。
「詳しいことを聞き出す前に、その場でそいつは…自決した。」
その時のことを思い出しているのか、苦い顔をするラッドの表情に、テリザはうつむいた。きっと、見たくない光景だっただろう。
「それだけじゃなかった。どうにかして見つけ出した集会の場には、ある貴族家の紋章が入ったボタンが落ちていたんだ。」
ラッドはいよいよ厳しい表情で、唇を開いた。
「ブラッドレイ家だ。」
テリザは思わずぴくりと身じろぎした。
(ブラッドレイ家…)
ローガン、という男の口元に浮かんだ嗜虐的な笑みを思い出しテリザは身を震わせた。
「テリザ?」
ラッドの気遣うような声に、テリザは現実に引き戻された。
「無理しなくてもいい。もし乗り気じゃないなら..」
テリザは否定しようと口を開きかけたが、テリザの後ろでハルが咳ばらいをした。