イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
カチ…カチ...カチ…
時計の秒針が時間を刻んでいく。
(眠れない……。)
テリザは寝返りをうつと、ベッドから半身を起こして髪に指を通した。
時間は既に夜の1時を過ぎている。身体は疲れているはずなのに、胸がもやもやして、なんだか目が冴えてしまっていた。
ベッドから下りてスリッパを履き、ガウンを羽織ると寝室から出た。夜風にでも当たりたかった。
広い廊下を一人で進んでいると、スリッパの立てる音はカーペットに吸い込まれていく。
(私...本当に…一人、なんだな…。)
故郷を離れて初めて、改めてそう思った。その思いは少しだけ、チリッと胸を焦がした。
記憶を頼りに、バルコニーのある方へ歩いていくと、ふと、そこが開いていることに気付いた。
(っ……)
なんだろうと思いながらそっとガラスに手をかけると……
(ラッド様…?)
彼は欄干に肘をかけ、コップを片手に、書類に目を通していた。
ほっとしたが、手がドアに当たってキィ…と音が立ってしまった。テリザがハッとして身をすくませると同時にラッドが顔を上げた。
「テリザ?」
「あの、すみません、お邪魔をするつもりでは…」
「邪魔なんかになってないさ。それより、こんな時間にどうしたんだ?眠れないのか?」
テリザは返事をする代わりにこくりとうなずいた。
「そうか。…こっちにおいで。」
優しく呼ばれ、テリザはそっとバルコニーに足を踏み出した。
ひやりとした空気が頬をなでる。
「寒くないか?」
ラッドの隣まで行き、バルコニーに手をかけると、彼が聞いた。
「大丈夫です。」
本当は少しだけ肌寒いけど、言うほどじゃない。
だけどテリザの本音を察したのか、ラッドは湯気の立つコップを差し出した。
「どーぞ。ホットミルクだ。気持ちが落ち着くぞ。」