イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
(えっと…まずは…。)
教わったようにカウンターを拭き、テーブルクロスを整えているうちに、ふと、ある考えがテリザの頭をよぎった。
「あの…アレク?」
「あ?」
不機嫌そうな声に少しひるんだものの、めげずに聞いてみた。
「ラッド様って、毎日あんなにお仕事大変なのかな?」
「はぁ?」
急にアレクは目を見開いたかと思うと、眉根を寄せた。
「『あんなに』って…お前昨日の夜、もしかしてあのおっさんと一緒にいたのか?」
途端に自分の口がすべったことを後悔し、テリザは赤くなった。
「っ…ラッド様はおっさんじゃないよ。」
「俺が言ってんのはそこじゃねー。質問に答えろ。」
急にアレクの機嫌が悪くなったことにたじたじとしながらテリザは答えた。
「…別に、ずっと一緒にいたわけじゃないよ。ちょっと、眠れなかったから外に出たらラッド様と会っただけで…。」
曖昧に語尾を濁すテリザを見下ろし、アレクは深く息を吐き出した。
「っ…なんでそんな風に言うの?」
テリザが言葉を絞り出すと、アレクは目をそらした。
「…別に。ただ、あんなおっさんなんかやめとけ。趣味わりーぞ、お前。」
アレクがそう言うと、テリザは苦笑した。
「ラッド様に失礼だよ、アレク。そもそも、そんなのじゃないよ、ラッド様は。」
(「デート」…なんておっしゃってたけど…そういう意味じゃないってわかってるし…。)
「じゃー他に好きな奴でもいんのかよ。」
アレクがさらっと聞くと、テリザの心臓は、ひときわ大きく鳴った。