イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
『今夜、あなたと出会ったことを…私は忘れられないでしょう』
『おいで。』
『お礼なら…それで十分です』
『テリザ。』
助けてくれた彼と…ラッドの声が、頭の中を駆け巡った、が。
『テリザ。』
自分の名前を呼ぶ、低い声。抱きしめる、逞しい腕。
『ごめん…テリザ。』
苦しげな声。
全てが怒涛のように甦り、テリザの心臓が激しく音を立てた。
―――全然、忘れられていなかった。
だけどそれらを全て押し込め、テリザはアレクを見上げて微笑んだ。
「いないよ。」
「…あっそ。」
――感情を隠すのがうまくて良かった、とテリザは思った。アレクはそのままテリザから離れ、開店の準備を続けた。
まだ、心臓はばくばくと鳴っていた。