イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
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ここに来てから何度も習ったように、テリザは茶葉が広がるように高い位置から湯を注いだ。
アレクには、「香りが飛んでる」とか「もたもたしすぎだ」とよく叱られたが、ここでの仕事をしっかり習得するために、テリザは彼の言うことを聞いていた。
「アレク、アールグレイはそろそろだっけ…?」
「だめだ、もう少し待て。」
鋭く指示され、持ち上げかけたティーコゼーを下ろす。
(アレクって…)
口は悪いし、素っ気ないけど、聞けばちゃんと教えてくれるし、なんだかんだ言いつつも気遣ってくれているみたいだ。
(苦手って思ったの、なしにしないとな…。)
「あの、どうかな…?」
客が少し途切れた合間にアレクを捉まえ、自分で淹れた紅茶をトレーに乗せてアレクに差し出した。
アレクはカップを手に取り、すっと香りをかぎ、色を確かめてから一口飲んだ。
「…ん、上出来。」
(あ……。)
彼の口元に微かな笑みが浮かび、手がこちらに伸びてきた。
何かを思う前に、くしゃっと頭をなでられた。
(褒められたんだ…!)
自然と口元が緩んだ。
アレクはすぐに背を向けてテーブルを片づけに行ってしまったが、やっと同僚として認められたような気がして、テリザは素直に嬉しかった。