イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
「ちょっと…!」
「何やってるの、どんくさいわね。」
聞いているうちに、傷つくと同時にだんだんと腹が立ってきた。明らかに彼女に非がある。
だけど言い返すことは店の評判を落としかねないことをテリザは知っていた。
「おい、何を…」
騒ぎを聞いたアレクが声を上げたが、テリザはいらだちを押えて頭を下げた。
「申し訳ありませ…」
言い終わる前にリュカの腕がテリザをかばった。
「待って。」
彼の鋭い声に、テリザと、彼女たちは止まった。
「今、君たちは自分が何したかわかってないの?」
珍しく、凄みの利いた様子で威圧され、彼女たちはひるんだ。
「あのっ…これは…」
「自分の非も認められないような女性なんて、令嬢失格だよ。」
「っ…」
下手に動けば肌が切れてしまいそうな空気の中、リュカはすっと席から立ち、テーブルから離れると、テリザの耳元でそっと囁いた。
「ごめんね…俺のせいで嫌な思いさせちゃって。」
「そんな…リュカのせいじゃないよ。」
テリザがそう言うと、リュカは淡く微笑んだ。
「ありがとう。」
ピンと硬貨を指先ではじいてカウンターに投げると、彼はブルーベルの外に出て行ってしまった。
彼がいなくなると、ついてきた女性たちはそろって気まずそうに下を向いて、荷物をまとめて出て行った。
しんとしてしまった店内で、テリザは床に膝をついて陶器の欠片を拾った。
(また割っちゃった…申し訳ないな。)