イケメン夜曲 ~幸せの夜曲~
第4章 皆との距離
「ぃっ…」
考えながら拾っていたので、破片が指に刺さってしまった。鋭い欠片をどかすと、ぷくりと血の玉がふくらみ、すっと流れ出した。
(あーあ…。)
「素手でやんな。ちょっとは考えろ。」
顔を上げると、アレクが自分を見下ろしていた。
「あ…ごめんなさい。」
「いいからこれ使え。」
アレクがテリザの隣に片膝をつき、こぼれた紅茶を雑巾で拭くと、テリザはおたおたとしながらもアレクに渡された箒で散らばった破片を集めた。
(これぐらいで動揺するなんて…全然だめだな、私。)
わけもなく手がカタカタと震えていることに気付き、テリザは掃除道具を片づけて手を洗いながら、ぐっと手首を握った。
「っおい。」
「ん?なに?」
アレクに肩を掴まれ、振り返ると、彼の焦ったような顔が目に映った。
「お前、手、すごいことになってんじゃねーか。」
「え?」
手を見下ろすと、破片で切ったところから血が溢れ、水で更に広がって指に痛々しい傷ができていた。
「あ、ほんとだ。」
テリザが苦笑すると、アレクは彼女の肩を掴んだ手に力を込めた。
「こっち来い。」
「え、」
「いいから。」
奥の狭い部屋についていくと、アレクはごそごそと上の棚から救急箱を取り出した。
「え、大丈夫だよこれぐらい。」
「何言ってんだ。料理に入ったらどうするんだ。」
(あ…そっか。)
「っ、そうだよね、ごめん。」
「……。」
アレクは黙ってテリザの手に消毒液を落とし、大げさに包帯を巻いていく。
「あの、そんなにしなくても…。」
「黙ってろ。」
乱暴に言われ、テリザは口をつぐんだ。
「…お前は、どうしてそう…」
アレクが言葉を選ぶように言いかけた。