
Welcome Bar
第2章 第一章 日常的に。
◆鱗視点◆
「あのー、店長お話が……」
グラスを洗っている手を止め、俺は後ろを振り返る。
そこには、どこか嬉しそうな月冴が立っていた。
「何だ? まさか、辞めたいとか言い出すんじゃねぇだろうな?」
そう言うと、月冴は心底驚いた表情で、ぶんぶんと必死に手を横に振り、違いますと言った。
「何か、ここで働きたいって子がいるみたいですよ。薪さんが言ってました」
「な、何っ!?」
俺は予想外に舞い込んできた幸せに心躍った。
正直言って、ここで働いている人数総勢五人では人手が足りない。
ここで新しい働き手はラッキーだ。
「マジか。じゃあ、俺から薪さんに電話をしとくな。報告ご苦労だ、月冴。もう家に戻ってていいぞ」
「じゃあ、お言葉に甘えさせて頂きます~」
俺は暫く裏口へ行く月冴を目で見送った。
あいつは、最初入って来た時は頼りない奴かと思っていたが、中々頑張っている。
力仕事だって引き受け、最後までやり通すし、客からの評判もいい。それに、皆がやりたがらない様な掃除なども自分からやる。
全く、バンドバンドでうるさい誰かとは大違いだ。
帰って来たら絶対説教してやる、と俺は心に決め、洗物を再開した。
