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10分屋【ARS・N】

第11章 先に生まれただけの僕たち

俺はとぼとぼとグランドに向かった。

二宮「俺、グラブ持って来てないよ。」

その声を聞いて、ひとりの部員がかけ寄ってきた。

「僕のグラブを使ってください!」

彼は、自分のグラブを差し出した。

二宮「え、でも君はどうするの?」

「僕は以前ケガをして、プレーはできないんです。今はマネージャーをしています。」

彼は、まっすぐ俺の目を見てグラブを差し出した。

二宮「あ、ありがとう…。」

キャプテンが指示を出して、俺は部員とキャッチボールを始めた。

久しぶりの感触に、胸が鳴った。

初対面の部員なのに、数回ボールを投げあっただけで息が合って来た。

部員が投げたボールをとりそこなって、俺はボールを追いかけた。

先にいた鳴海校長が、ボールを拾って渡してくれた。

鳴海「二宮さん、本当にありがとうございます。」

俺はボールを受け取った。

二宮「なんで、校長が野球部の練習みてるんだよ?」

鳴海「顧問の親戚に不幸があって、急に休みになったんです。他の先生方は、それぞれ受け持ちの部活がありますから。」

二宮「校長ってそんなこともすんの?」

鳴海「あはは…! それどころか、退職させた教員の穴埋めに数学の授業までしてますよ。教員資格持ってるとはいえ、教育実習しかしたことないのに。」

鳴海校長は、けらけらと笑った。

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