10分屋【ARS・N】
第5章 ゆるして
「ピカです。母の兄は爆風に飛ばされ亡くなりました。母は、蔵の陰におり、一命をとりとめました。」
「……。」
俺は言葉が出なかった。
映画の撮影に入る時、原爆についてのひととおりの話は聞いたが、それでもキヌエの娘の話は衝撃的だった。
「それから、母は自分を責めて暮らしました。自分がわがままを言わなかったら、兄は死ななかったと。兄を殺したのは自分だと。」
「そんなこと…。」
俺は、こぶしを握った。
「そうです。母の兄が死んだのは、母のせいではありません。戦争のせいです。だから…。」
「だから?」
「母をゆるしてやってください。“お前のせいじゃないんだよ”って言ってやってください…。」
「でも、俺はその婆さんの兄貴じゃない。そんな騙すようなことは…。」
キヌエの娘は、思いつめた顔をした。
「母は東京の資産家と…、父と結婚しましたが、数年前に父が他界してから認知症を発症しました。歳をとり、もう長くは生きられません。」
娘は、ハンドバッグからふくさを取り出すと、中から札束を出した。
「どうか、母を今なお続く戦争の苦しみから解放してやってください。」
「……。」
俺は言葉が出なかった。
映画の撮影に入る時、原爆についてのひととおりの話は聞いたが、それでもキヌエの娘の話は衝撃的だった。
「それから、母は自分を責めて暮らしました。自分がわがままを言わなかったら、兄は死ななかったと。兄を殺したのは自分だと。」
「そんなこと…。」
俺は、こぶしを握った。
「そうです。母の兄が死んだのは、母のせいではありません。戦争のせいです。だから…。」
「だから?」
「母をゆるしてやってください。“お前のせいじゃないんだよ”って言ってやってください…。」
「でも、俺はその婆さんの兄貴じゃない。そんな騙すようなことは…。」
キヌエの娘は、思いつめた顔をした。
「母は東京の資産家と…、父と結婚しましたが、数年前に父が他界してから認知症を発症しました。歳をとり、もう長くは生きられません。」
娘は、ハンドバッグからふくさを取り出すと、中から札束を出した。
「どうか、母を今なお続く戦争の苦しみから解放してやってください。」