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10分屋【ARS・N】

第6章 夫婦

バタバタと二人が出て行った。

俺は煙草に火を点けた。

煙をふあーっと吐き出しながら考えた。

しかし、変な客だな。

俺は同性愛でも異性愛でも気にしない。

俺自身、性的にかなり奔放だと自覚しているからね。

ただ、自分の欲求を満たすために他人を利用するなんて卑怯な真似は許せない。

サエコはおそらく俺のファンなんかじゃねぇ。

ウエダに強要されたんだ。

同性に性的興奮を覚える夫と、それに黙って従う妻。

ウエダも、姑息な真似せずに正々堂々俺を買えばいいじゃねぇか。

だいたい、サエコも嫌なら嫌って言えばいい。

「………。」

サエコがポロリとこぼした涙が脳裏にこびりついて離れない。

俺は、もうひとくち煙を吸い込むと、灰皿に煙草をもみ消した。

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