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ふたり、溺愛中

第9章 紫のスーツの彼は

「…送りは、ここでいいのかな?」


「十分よ。
それより、考えてくれてる?」



「あぁ…」






見つからないように闇に紛れながら近付き、ようやくふたりの会話がぼんやり聞こえてきた。


確信したいからなんて言いつつ、その声を聞いてもうショックは隠せなかった。





だって心から愛してる人の声なら姿を見なくったって、聞いただけでわかるもの。





いまそこにいるの、やっぱり悠さんだったんだから…。







「もう、いつまで待たせるの?
私、もうそんなに若くないのよ」



「何言ってるの。
君はいつまでたっても、綺麗で魅力的だ」



「だからこそ、今のうちに早くしたいのっ」







バクバクバク…


心臓はうるさく鳴り、手のひらは変な汗が出て冷たいの。



何かの間違いであってほしい。

そうだ、帰り際に煌さんが私に言ってくれたように、悠さんもお客さんを途中まで送ってあげてたんだよ。


だから、今も「送りは」って……







「ねぇ、あたしの気持ち知ってるでしょ!
だったら早くあたしを……っ」



「わかってるよ。ほら…」





ふたつの影が、ひとつになった。



ギュッと抱きよせられた女性の言葉が、悠さんの胸に顔を埋められ途切れた。





待って。

なに、これ。


どうして、どうなってるの?






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